平成28年9月25日に滋賀県彦根市みずほ文化センターに於いて、滋賀県防災講演会が開催されました。主催は滋賀県、彦根市、(一財)消防防災科学センター、(公社)地盤工学会関西支部です。その地盤工学会を通じて阪神・淡路大震災についての講演依頼がK-TECにあり、片瀬範雄が講師として参加しました。
参加者は滋賀県下の住民の皆様や自治体職員など約150人でした。
第一部として「活断層地震・南海トラフ地震による滋賀県内への影響」と題して京都大学武村恵二教授より、近江盆地の成り立ちや琵琶湖をとりまく活断層の説明、どのように揺れるのか、過去にどのような地震があったのか、地震の誘発と素因は、地盤を知ることの意味などなど。地元の皆様が気にされている事柄を研究者の立場から専門的に、同時にわかりやすい言葉で講演がありました。
続いて片瀬より「あなたは自然災害に備えていますか~阪神・淡路大震災から学んだこと~」と題して、震災時に起きたこと、思ったこと、反省点。今それをどう活かすのかといったことについて話をしました。
阪神・淡路をきっかけにいい方向に変わったこともある反面、その後の災害をみる時、当時と同じ繰り返しもあり、それは私達被災した者の責任として伝えることが出来ていない反省点を含め、当時の様子を少しでも多く、何か一つでも伝わねばの想いが強く、やや駆け足で詰め込んだ内容でした。70分という長丁場を事前に内容を記載した原稿を渡していたといえ、訳してくださった手話通訳者や口述筆記のみなさんにご苦労をおかけしました。
内容の1点目は耐震化についてで、神戸市内の死亡者4571名。そのうち建物の下じきになり、圧死、窒息死で83.3%の方は、ほんの数秒の揺れで亡くなりました。耐震補強できていたら、その人たちは命を無くさずに済んだと思いますし、火災で亡くなった12.8%の方も家が倒れなかったら、亡くなることはなかったのです。
耐震補強にはお金がかかり、「そんな高いの出来ない。わしは死んでも良い」と言う人も多くいます。耐震化はその人だけの問題では無い。潰れた家は地域の人の避難路を妨げる、火災があれば、逃げ道を無くする、救助の人や消防車が近づけない、救援物質を運ぶのも大変です。耐震化はその人だけじゃなくて、周りの人の為にも必要です。
100点満点の補強をしようと思うから大変なことだと思うのです。筋違を入れる、厚い合板を張る、農家の田の字型部屋の使い方を考えた補強をするなど、出来ることから始め、せめて自分の命だけは守り、地域に迷惑をかけないように考えてください。
2点目は救出についてで、潰れた家から8割もの市民を助けたのは市民です。消防も警察も自衛隊だけでは人員に限界があり、多くの人の救出を期待しても無理です。救出のプロの見事な救出イベントを視た人は、逆に公助で助けて貰える、共助の気持ちが薄れるという、意見も聞きます。車のジャッキやバールや鶴嘴など農機具も使い、ちょっと持ち上げれば救出できますし、隙間を作りながら侵入も出来ます。壊れた家の下に人がいるので、重みをかけないよう上からより、下から救出する訓練も必要です。
私が救出した元気であった娘さんが亡くなったのは、当時は医学関係者間でも話題になっていなかったクラッシュ症候群の可能性が大で、地域で一時も早い救出の大切さを再認識しています。
3点目は備蓄についてで、自治体が配布している『非常もちだし袋のリスト』の物を全部揃えようと思うと、逆に多すぎて意欲が無くなると思います。食料なら普段食べて入いるものを少し多めに買い、食べる度に補充しておく方法から始められると抵抗感は無くなると思います。家が傾いても完全に倒壊しなければ、取り敢えず避難をして揺れが収まった後で、食糧を取りに戻る、重たい水も、最小限だけ持って出るなど身軽に家を離れることです。
生き残るために、大げさに考えず、ちょっと普段の生活の中で、出来ることから始められることが大切と思います。
その他、避難所生活や仮設住宅の厳しい生活の中で被災した市民が被災者のお世話をしたことや、地域で事前のコミュニテ―活動が活発なところほど、自立した避難所となったことや、学生を中心とするボランティアが長期間滞在して、被災者と親しくなり、行政では言えない自立と自律の大切さについて話し合っている姿もあったことを報告しました。
最後に、三日月滋賀県知事の挨拶で印象に残った言葉をお伝えしたいと思います。「熊本の蒲島知事さんに地震の1か月後ぐらいにお会いしましてね。支援のお礼と一緒に、こう言われたんですよ。『三日月さん。断層は動くよ。確率ちょっとでも、動かないと言われてても、断層は動くよ。だから動くと思って対処した方がいい』」 (文責 H.S)